その患者さんはSYSかもしれません Schaaf-Yang症候群

Schaaf-Yang症候群(SYS)は、
2013年に疾患概念が確立した先天性疾患です。

私たちは、厚生労働省の難治性疾患政策研究事業に選ばれて、この疾患の研究を行っています。
この疾患は、新生児期の筋緊張低下、乳児期の哺乳障害など、Prader-Willi症候群(PWS)と同様の症状を呈します。
一方、SYS特有の症状として多くの例で関節拘縮やPWSと比べ発達の遅れが重度なことが多く認められます。

topic 1

SYSでは関節拘縮や
発達の遅れが問題となります

新生児期の筋緊張低下、乳児期の哺乳障害などPWSと同様の症状を呈しますが、SYS特有の症状として多くの例で関節拘縮が認められます。 また、PWSと比べて発達の遅れが重度なことが多いです。

topic 2

こんな症例があれば
ご注意ください

現時点で確定診断には遺伝子検査が必須ですが、診断基準に当てはまる症例以外にも以下のような症例に対しては遺伝子検査が推奨されます。

  • 発達の遅れを認め、過去に Prader-Willi 症候群を疑われたが、遺伝学的検査で診断がつかなかった症例。
  • 発達の遅れを認め、新生児期に遠位側優位の関節拘縮を認めたが、成長とともに拘縮が改善している症例。
topic 3

見落とされる可能性の
高い疾患です

  • 常染色体顕(優)性ですが、保因者の父親(父親の変異は母親由来)からの遺伝の可能性があります。網羅的遺伝学的解析でも、de novoだけに注目すると見落とされる可能性があります。
  • 原因遺伝子であるMAGEL2 はGCリッチな領域であるため、エキソーム解析などの網羅的解析では、十分にカバーできていない可能性があります。
topic 4

根本的な治療法は
まだ確立されていません

低身長に対する成長ホルモン補充療法が有効との報告はありますが、現時点で根本的な治療法は確立されていません。

topic 5

疾患の早期発見・福祉制度の確立・
治療法の確立に向けて

SYSの国内報告例はまだ少なく、研究途上の段階です。 今後、私たちは全国疫学調査および疾患啓発の取り組みを実施し、疾患の早期発見・福祉制度の確立・治療法の確立につなげていきたいと考えています。

下記のtopic6〜9は2021年の全国調査の結果をまとめた内容です。

topic 6

SYSは新生児期の筋緊張低下、
乳児期の哺乳不良、発達の遅れ、
関節拘縮を主症状とする疾患です。

Prader-Willi症候群と同様に新生児期の筋緊張低下、乳児期の哺乳不良、発達の遅れが認められ、SYS特有の症状として関節拘縮が主症状であることが分かりました。これは海外の報告と同じ結果でした。

主要症状 本調査

精神運動発達遅滞

25/25

100%

新生児期の筋緊張低下

23/24

96%

遠位側優位の関節拘縮

21/25

84%

乳児期の哺乳不良

19/23

82%

topic 7

SYSでは特徴的な顔貌、
小さな手、低身長、眼科的異常などの
症状が認められます。

主要症状以外では、浅い鼻唇溝、大きな耳などの特徴的な顔貌、小さな手、しばしば成長ホルモン分泌不全を伴う低身長、斜視などの眼科的異常、などが認められました。

参考所見 本調査

特徴的な顔貌

25/25

100%

眼科的異常

23/25

92%

小さな手

23/25

92%

低身長

19/24

79%

脊柱側彎症

17/24

71%

新生児から乳児期の呼吸障害

14/25

56%

睡眠時無呼吸

11/21

52%

自閉スペクトラム症

10/20

50%

体温調整障害

9/20

45%

便秘

10/23

43%

胃食道逆流症

6/20

30%

急性脳症の既往

4/2

17%

topic 8

SYSは日常生活において
多くの場面で支障をきたす難病です。

ADLに関する調査(6歳以上を対象)では、多くの方が日常生活において多くの場面で支援が必要であることが分かりました。今後も私たちは疾患の研究を継続し、早期発見、福祉制度の確立、治療法の確立につなげていきたいと考えています。

topic 9

MAGEL2変異は2/3の症例で
de novo、1/3の症例で保因者の
父親からの遺伝でした。

確定診断には、原因遺伝子であるMAGEL2を解析する必要があります。保因者の父親(父親の変異は母方アレル由来)からの遺伝の可能性もあり、遺伝カウンセリングの側面からも遺伝子解析は重要と思われます。名古屋市立大学大学院医学研究科では、SYS確定診断のための遺伝子解析を行っています。

常染色体顕(優)性遺伝の形式をとりますが、男性から受け継いだときのみ発症します。

Schaaf-Yang症候群の診断方法(診断基準)

A主要臨床症状

  1. 精神運動発達遅滞
  2. 新生児期の筋緊張低下
  3. 乳児期の哺乳不良(しばしば経管栄養を必要とする)
  4. 遠位側優位の関節拘縮

Bしばしば認める症状・所見

  1. 自閉スペクトラム症
  2. 特徴的な顔貌(浅い鼻唇溝、大きな耳)
  3. 睡眠時無呼吸
  4. 低身長(しばしば成長ホルモン分泌不全が認められる)
  5. 体温調整障害
  6. 呼吸障害 (しばしば新生児期から乳児期に気管内挿管、人工換気を必要とする)
  7. 便秘
  8. 胃食道逆流症
  9. 脊柱側弯症
  10. 斜視などの眼科的異常
  11. 性腺機能低下症(特に男児)
  12. 小さな手足

Cその他の参考所見

  • 当初 Prader-Willi 症候群(PWS)を疑われたが、遺伝学的解析によって否定された症例がしばしば認められる。
  • PWSの症状と比較すると、過食や乳児期以降の体重増加が少なく、発達の遅れは重度なことが多い。
  • 日本人では感染症を契機に脳症に類似した退行を示す症例が報告されている。

D検査所見

  • 父親アレル由来MAGEL2 遺伝子の短縮型変異の存在。
    (現時点で、遺伝子検査は確定診断に必須)

確実例: 🅐-🅐-に加えて🅐-もしくは🅐-を認め、🅓を満たす場合。
疑い例: 🅐-に加えて、🅐-もしくは🅐-もしくは🅐-を認め、🅓を満たす場合。

  確実例 疑い例
🅐 臨床症状 発達遅滞
筋緊張低下      
哺乳不良      
関節拘縮      
🅓 MAGEL2 遺伝子変異

Schaaf-Yang症候群の管理指針

胎児期

出生前に見られる症状としては、胎動減少、羊水過多などの報告があります。

新生児期

多くの症例で出生後より呼吸障害、哺乳障害が認められ、NICUでの集中治療を要します。

  1. 呼吸障害

    半数以上の症例で出生後から呼吸障害が認められます。呼吸補助は酸素療法から侵襲的人工換気まで様々であり、期間も数時間から数か月まで様々です。重症例では気管切開が必要となることがあります。喉頭軟化症、気管軟化症、舌根沈下、肺低形成の報告もあります。耳鼻科医の診察、画像評価による気道の解剖学的異常の除外が必要になります。

  2. 哺乳障害

    吸啜不良や誤嚥により窒息を起こすことがあります。低緊張や、活気不良、嚥下障害、高口蓋の合併があると経口摂取が困難になります。新生児科医、耳鼻科医、理学療法士による嚥下の評価が必要になります。また、画像評価による解剖学的異常を除外する必要があります。哺乳障害に対して経鼻胃管や胃瘻による経管栄養が必要となる症例があります。

  3. 関節拘縮

    内反足、遠位側優位の関節拘縮、関節可動域制限が出生時にしばしば認められます(全国調査で84%)。胎動低下によって、重度の関節拘縮を引き起こすことがあります。早期の小児整形外科医の診察、リハビリテーションが予後を改善する可能性があり重要です。

  4. 内分泌学的異常

    新生児期には尿崩症、低ナトリウム血症、低カリウム血症、低血糖などの報告があります。血糖値、電解質などの血液検査を行い、必要に応じて補正が必要になります。

  5. 循環器

    心室中隔欠損症、頻脈性不整脈の合併が報告されています(症例報告レベル)。

乳児期

  1. 精神運動発達の問題

    3か月に1回の身体診察、発達評価が推奨されます。

    • 1-1 頚定、坐位、独歩(独歩は獲得されない症例が多い)などの運動発達は著明に遅れる症例が多く、リハビリテーションが必要になります。
    • 1-2 微細運動も運動発達の遅れ、関節拘縮、精神発達遅滞のために遅れる症例が多く、作業療法が必要になります。
    • 1-3 精神発達に関しても著明に遅れるケースが多く、言語による意思疎通がとれる症例は一部のみです。海外の報告では自閉スペクトラム症の合併が多く、児童精神科医、言語聴覚士による評価が推奨されます。
  2. 骨格筋の異常

    3か月に1回の身体診察、筋力評価、必要に応じてレントゲン検査が推奨されます。

    • 2-1 筋緊張の異常、特に低緊張は多くの症例で認められます。
    • 2-2 遠位側優位の関節拘縮は多くの症例で認められます。
    • 2-3 側弯、後弯、前弯の合併も認められます(全国調査で71%)。早期のリハビリテーション、装具が必要となる場合があります。定期的に小児整形外科医の診察をうけ、股関節レントゲン、脊椎レントゲンを行うことが推奨されます。必要に応じて外科治療が考慮されます。
  3. 消化器異常

    3か月に1回の身体診察、必要に応じてpHモニタ、嚥下造影検査が推奨されます。

    • 3-1 摂食障害となる可能性はいずれの年齢でもあります。嚥下障害、誤嚥の反復が主な原因であり、経鼻胃管や胃瘻による栄養が必要となることがあります。
    • 3-2 早期発症の慢性便秘、胃食道逆流(全国調査でそれぞれ43%, 30%)もしばしば認められます。
    • 3-3 イレウス、好酸球性食道炎、食物アレルギーの報告があります(症例報告レベル)。
  4. 感染症

    必要に応じて胸部レントゲン、CT、MRI検査が推奨されます。

    • 4-1 呼吸器感染症の反復が呼吸補助をしている症例だけでなく、呼吸補助を必要としていない症例でも報告されています。肺炎や誤嚥の反復による慢性肺疾患も報告されています。呼吸器系の発生異常の除外のためにも画像検査が必要となる場合があります。
    • 4-2 国内では感染症などの発熱に伴いけいれん、意識障害を呈し退行する脳症エピソードを合併した症例が数例報告されており、注意が必要です。必要に応じて頭部MRIなどの精査が推奨されます。
  5. てんかん

    必要に応じて脳波検査が推奨されます。

    • 5-1 熱性けいれんの報告があります。日本人は海外と比べて熱性けいれんの頻度が高く注意が必要です。
    • 5-2 てんかんの合併もときに認められます。発作型(焦点起始発作、全般起始発作)は様々であり、症例に応じて抗発作薬(抗てんかん薬)が使用されます。
  6. 循環器

    必要に応じて心電図、心臓超音波検査が推奨されます。

    心室中隔欠損症、頻脈性不整脈の合併が報告されています(症例報告レベル)。

幼児期以降

  1. 精神運動発達の問題

    半年から1年に1回の身体診察、発達評価が推奨されます。

  2. 骨格筋の異常

    半年から1年に1回の身体診察、筋力評価、必要に応じてレントゲン検査が推奨されます。

  3. 消化器異常

    半年から1年に1回の身体診察、必要に応じてpHモニタ、嚥下造影検査が推奨されます。

  4. 内分泌学的異常

    半年から1年に1回、身体診察、血液検査が推奨されます。

    • 4-1 幼児期から小児期に成長障害を呈することが多いですが、肥満傾向となるケースも見られます。食事指導、食事療法が必要となります。
    • 4-2 -1.5 SD〜5 SDの低身長を認めることが多いです(全国調査で79%)。海外では成長ホルモン療法の報告が認められますが、本邦ではSYSに対する保険適応はなく、閉塞性無呼吸のリスクも考慮する必要があります。
    • 4-3 体温調整障害の合併が報告(全国調査で45%)されており、対策が必要になります。
    • 4-4 小陰茎、停留精巣を合併する際はテストステロン補充、外科治療を検討する必要があります。
    • 4-5 尿崩症を合併し、ホルモン補充療法が必要となることがあります(症例報告レベル)。
    • 4-6 汎下垂体機能低下症の報告があります。副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモン、ソマトメジンC、成長ホルモンなどのモニタリングを行い、ホルモン補充療法が必要となることがあります(症例報告レベル)。
    • 4-7 低血糖症の報告あり、発症時はブドウ糖の補充が必要となります。また、高インスリン血症の除外が必要です(症例報告レベル)。
  5. 睡眠障害

    必要に応じてポリソムノグラフィーが推奨されます。

    中枢性および閉塞性無呼吸が報告されており(全国調査で52%)、認知機能を悪化させたり、行動異常を生じるのみでなく、早期死亡の原因となることがあります。

  6. 眼科的異常

    定期的な眼科診察が推奨されます。

    眼科的異常として斜視、眼振の報告が多く認められます(全国調査で92%)。視神経の低形成や萎縮が認められることもあります。SYS患者では視力の評価が困難なことが多く、小児眼科医の診察が必要になります。アイトラッキングの異常は自閉スペクトラム症の影響も考慮する必要があります。

  7. 感染症

    必要に応じて胸部レントゲン、CT、MRI検査が推奨されます。

  8. てんかん

    必要に応じて脳波検査が推奨されます。

  9. 循環器

    必要に応じて心電図、心臓超音波検査が推奨されます。

遺伝カウンセリング

本疾患は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとりますが、父由来のアレルに病的バリアントがある場合のみ発症します。全国調査では本疾患の原因となるMAGEL2の病的バリアントは2/3の症例でde novo、1/3の症例で保因者の父親(父親の変異は母方アレル由来)からの遺伝でした。遺伝学的に診断された際は、臨床遺伝専門医などによる遺伝カウンセリングが推奨されます。

(参考文献)Castilla-Vallmanya L et al. J Med Genet 2022 Online ahead of print. Negishi Y et al. J Hum Genet 2022;67:735-738.

SYS研究班

研究代表者
齋藤伸治
名古屋市立大学大学院医学研究科新生児・小児医学分野・教授
研究分担者
根岸 豊
名古屋市立大学大学院医学研究科新生児・小児医学分野・助教
黒澤健司
神奈川県立こども医療センター遺伝科・科長
高野亨子
信州大学医学部附属病院遺伝子医療センター・講師
松原圭子
国立成育医療研究センター研究所分子内分泌研究部・上級研究員
西山 毅
名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野・准教授
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